1. 「特に何もしていないのに痛めた」
「重いものを持ったわけでもないのに、急に腰が痛くなった」「いつもと同じ動きをしていただけなのに、なぜか今回は腰にきてしまった」。こうした経験をお持ちの方は、意外と多いのではないでしょうか(もちろん腰以外の部位でも同じことが起こります)。
はっきりとしたきっかけがあれば、まだ納得もしやすいものです。しかし、思い当たる原因がないまま痛みだけが出てくると、「なぜ自分だけ」「何か体に異常があるのでは」と不安になってしまう方も少なくありません。
けれど、これは決して珍しいことではなく、「あるある」です。体は基本的に、使いすぎる(オーバーユース)と壊れてしまいます。また、使っている意識がなくても、同じ場所に負荷がかかり続けることでも同様に壊れてしまいます。特別な一撃がなくても、体はある条件が重なるだけで、少しずつ限界に近づいていくことがあります。
2. 体は「テンセグリティ構造」でできている
◆テンセグリティとは——骨は「浮いている」!?
この「使いすぎ」がなぜ起こるのかを理解する鍵になるのが、人体に「テンセグリティ構造」を当てはめる考え方です。
テンセグリティとは、テンション(張力)とインテグリティ(統合)からなる造語で、人体に当てはめる際に重要な概念だと考えます。
従来の解剖学では、人体を「骨(柱)を筋肉が覆っているビルのようなもの」と捉えがちでした。しかし実際の生体では、骨同士が直接支え合っているわけではなく、周囲の組織などがつくる張力のネットワークの中に、骨が浮いているような状態にあります。関節を構成する骨同士はくっついておらず、周囲の筋膜(ファシア)や靭帯、関節包などによって、近づきすぎないよう適度な距離感が張力によって保たれているのです。
◆関節症とレントゲンが示すもの
関節症などの際に、レントゲンで骨同士の間隔の狭さがよく話題になりますが、それは同時に、周囲の組織の張力が落ちてしまっていることの表れでもあるのです。
局所的な痛みに対しても、部分的な「骨のズレ」だけを見るのではなく、「全身の張力バランスの崩れ(筋膜の突っぱり)」を整えることで、自然と骨が正しい位置に収まろうとする——これがテンセグリティ構造が持つ機能です。
◆負担の分散と、オーバーユースが生まれる仕組み
この構造が本来どおりに機能していれば、ひとつの動作に必要な負担は、複数の関節にバランスよく分配されます。しかし、どこか一箇所の関節が動かなくなると、その分の役割を別の場所が肩代わりすることになり、そこだけが過剰に働かされる状態、つまりオーバーユースが生まれてしまうのです。
3. 前屈という動作で起きていること——股関節と腰椎の関係
◆前屈と前傾の違い
具体的な例で見てみましょう。私たちが体を前に倒す「前屈」という動作は、本来、股関節(骨盤が前後に傾く動き)と、腰椎を含む背骨全体の前後屈が、それぞれ役割を分担しながら行うものです。
ところが、股関節の可動性が低下していると、骨盤を前傾させる動きが十分に出せません。すると、前屈に必要な角度を確保するために、本来分担されるはずだった分まで、腰椎が余計に前後屈することで補おうとします。
これは、股関節が担うべき前傾動きが、腰椎での前屈という動作に依存する形となり結果、動作の負担が腰だけに集中してしまっている状態です。
◆日常により作られる、使いすぎの習慣
日常のなにげない前屈動作のたびにこれが繰り返されれば、腰椎とその周囲の組織には、本来想定されていない負担が積み重なっていきます。「気づけば腰を痛めていた」という背景には、こうした一箇所への負担集中が隠れていることが少なくありません。
4. まとめ
今回は例として腰を取り上げましたが、こういった視点で体全体を見れば、どこの関節に異常が出てもおかしくないと思います。捉え方には様々なアプローチがあり、これは当院が重視している視点のひとつです。症状の出方や体の状態は一人ひとり異なるため、最終的にはご自身の体を直接拝見した上で判断することが大切だと考えています








