我々の体の中を走る神経は、外側を「神経上膜」という膜でしっかりと守られています。しかし、この神経上膜が長時間にわたって圧迫や摩擦などのストレスを受けると、炎症が起こります。炎症が進行すると、神経上膜には浮腫、つまりむくみが生じます。このむくみによって神経上膜の中を走る血管が圧迫され、神経への血流が低下してしまいます。血流が悪くなると、神経に必要な酸素や栄養の供給も不足してしまい、神経の栄養が損なわれていきます。
このような状態が長く続くと、炎症は神経周膜や神経束の内部にまで広がり、神経を取り巻く「nervi nervorum(ナーヴィ・ナーヴォルム)」という神経へいく神経が刺激されて活性化します。その結果、神経はちょっとした動きや軽い圧迫といった機械的な刺激にも過敏になり、わずかな刺激でも痛みを感じやすくなります。これが「疼痛閾値の低下」と呼ばれる現象で、神経の痛みやしびれはこのようなメカニズムで生じることがあると考えられます。
では、神経損傷はどこまで回復が見込めるのでしょうか。回復が比較的期待できるのは、神経上膜やその周囲の脂肪組織など、神経の外側の問題にとどまっている段階です。この段階であれば、圧迫や炎症の原因を取り除き、血流や栄養の供給を回復させることで、神経本体への深刻なダメージが及ぶ前に十分な回復が期待できます。また、炎症や血流障害が神経周膜にまで広がった場合でも、早期に治療介入があれば、神経線維自体が壊死や線維化に至る前であれば回復の可能性があります。
しかし、炎症や障害が神経内膜や神経線維自体にまで及んでしまうと回復は著しく困難になります。
例えば、慢性的な痺れやヘルニア、狭窄などが長期間にあると手術により圧迫していたものを除去をしても術後に痛みが取れても痺れは残るなど考えられるでしょう。このため、神経の損傷はできるだけ早く発見し、適切な治療を行うことがとても大切です。